音声解説版
記事の内容を、耳で追いやすい音声解説として再構成しています。
目が覚めて、夢を思い返してみる。海辺を歩いていた。誰かと言い争っていた。場面の筋は意外なほどはっきり残っているのに、「あの海は何色だった?」と自分に尋ねた途端、答えに詰まる。カラーだった気もする。けれど、色という属性そのものが、記憶のどこにも見当たらない気もする。
この「言い切れなさ」は、単なる記憶力の問題として片付けられがちですが、実は夢研究がずっと格闘してきた問いの入口です。夢には本当に色があるのか。一見単純なこの問いに答えるには、少なくとも三つの段階を分けて考える必要があります。夢の最中の体験、起床後に残った記憶、そしてそれを言葉にした報告。この三つは同じものではなく、研究の数字はそのどれを測ったかで大きく変わってきました。
「色がない」と「色を覚えていない」は違う
まず、朝の状態を整理してみます。夢の色をめぐって、私たちが実際に立てるのは次のような区別です。
- 夢の最中の色の体験:夢の中で、対象や場面が有彩色、あるいは無彩色(色みを持たない白・黒・灰色だけの見え方)として見えていたという主観的な経験。
- 起床後の色の記憶:目が覚めた時点で、色を思い出せるかどうか。思い出せないことは、夢の中に色がなかったことと同じではありません。
- 報告での色の言及:夢を書いたり話したりするとき、色に触れるかどうか。誰にも尋ねられずに色を書く場合と、「何色でしたか」と質問されて答える場合とでは、意味が違います。

ここから、大事な原則が二つ出てきます。ひとつは、夢の記述に色が書かれていないことは、白黒の夢だった証拠にはならないということ。色が報告されなかった、というところまでしか言えません。もうひとつは、「色を思い出せない」は、カラーとも白黒とも別のカテゴリーとして保持する必要があるということです。思い出せない夢を白黒側に数えれば白黒夢は増え、カラー側に数えればカラー夢は増える。この振り分けひとつで、研究の結論は変わってしまいます。
そしてもうひとつ、前提として押さえておきたいのは、夢の報告は夢体験の録画ではないという点です。研究者は夢そのものを直接観察できず、起床後の自己報告を通してしか近づけません。報告は重要な証拠ですが、そこには記憶の変化、注意の向け方、質問のされ方、言葉の選び方が必ず混ざります。この制約を踏まえてはじめて、次に見る数字たちの読み方が定まります。
カラー夢の割合が、一つに決まらない理由
「夢の何%はカラーか」という問いに、研究は一つの数字を返してくれません。並べてみると、その理由が見えてきます。
1962年のKahnらの研究では、実験室で眠っている人を起こし、夢の対象について直後に具体的な色を尋ねました。この条件では、報告された夢の82.7%に色があったとされています。ただしこれは古い短報で、夢に近い時点で注意深く質問した、という条件付きの値です。具体的に尋ねること自体が色への注意を誘導した可能性も除けません。
一方、2008年のSchredlの研究では、444人が2週間つけた1,612件の夢の自由記述を分析しました。色について何も尋ねない形式です。すると、黒・白を除く色の言葉が自発的に現れた報告は19.7%にとどまり、75.4%の報告には色の言葉がまったくありませんでした。ここで先ほどの原則が効いてきます。この75.4%は「白黒の夢だった」割合ではなく、「色が書かれなかった」割合です。物語を自由に書くとき、色は記述の優先順位から外れやすいのです。
同じ2008年、Schredlらの別の研究は、尋ね方の影響を同じ枠組みの中で比べました。「色の記憶なし」という選択肢を用意して普段の夢を推定してもらうと、カラー55.1%、白黒9.4%、記憶なし35.5%。ところが起床直後に、その朝の夢に出てきた主要な対象178個について個別に色を尋ねると、カラー82.8%、白黒2.7%、記憶なし14.6%になりました。分母が「本人の推定」から「夢の中の対象」へ変わり、時点が直後になると、数字はここまで動きます。
さらに2017年、Königらは2,701人を対象にしたオンライン調査で、普段の夢をカラー・白黒・色の記憶なしに割合として配分してもらいました。平均はカラー48.57%、白黒10.67%、色の記憶なし40.76%。回顧的な自己推定という条件では、「思い出せない」が非常に大きな領域を占めることが分かります。

82.7%、19.7%、48.57%。これらを平均して「本当のカラー夢率」を出すことはできません。分母が違い(回答者か、夢か、夢の中の対象か)、時点が違い(直後か、後日の推定か)、質問が違う(自由に書くか、具体的に尋ねるか)からです。言えるのはむしろ、こういうことです。起床直後に具体的な色を尋ねるほどカラーの回答は増え、自由記述や後日の推定では色は言及されにくく、「不明」が大きく膨らむ。数字の揺れそのものが、夢の色が体験・記憶・報告の三段階を通ってしか測れないことを示しています。
白黒テレビは白黒の夢を作ったのか
夢の色をめぐる歴史には、奇妙な曲がり角があります。20世紀半ば、心理学の調査でも一般の常識でも、「夢はだいたい白黒」という見方が優勢だった時期があるのです。
Schwitzgebelの2003年の研究によれば、1942年の質問紙調査では回答者の70.7%が「夢で色を見るのはまれ、あるいは全くない」と答えていました。ところが2001年に同じ型の質問で調べると、その割合は17.7%まで下がっていました。約60年のあいだに、人々の答えは大きく入れ替わったことになります。
有力な説明候補が、映像メディアです。ちょうどこの期間に、映画とテレビは白黒からカラーへ移行しました。2008年のMurzynの研究は、25歳未満の若年層と55歳を超える年長層、あわせて約60人を比べ、カラーより先に白黒の映像メディアに接した群のほうが、グレースケール(無彩色)の夢の報告が多いことを示しました。この研究では質問紙と朝の夢日誌の結果に一定の整合もありました。Schwitzgebelらが2006年に行った中国での調査でも、年齢は近いのにカラー映像への接触歴が異なる三つの集団を比べると、接触歴が長い集団ほどカラーの夢を多く報告しています。先ほどのKönigらの大規模調査でも、高年層ほど白黒や「記憶なし」の推定が高い傾向がありました。

ここまでは言えます。集団のレベルで、白黒メディアの経験と白黒夢の報告には関連が繰り返し観察されている。しかし、「白黒テレビが白黒の夢を作った」と因果で言い切ることはできません。これらの研究では、メディア経験は年齢、生まれた世代、文化、教育、記憶の遠さと分かちがたく絡んでおり、どれも横断的な比較で、同じ人を長期間追跡したものではないからです。
そしてSchwitzgebelが2002年の論文で示したもうひとつの可能性が、この話を一段深くします。変わったのは夢そのものではなく、夢をどう理解し、どう語るかという文化的な枠組みだったのかもしれない、という視点です。「夢は映画のようなもの」というイメージが白黒映画の時代に広まり、人々の答え方を方向づけた可能性があります。ただし、夢体験は不変で語り方だけが変わった、と断定することもまたできません。体験と語りのどちらがどれだけ動いたのか、それを切り分ける方法を私たちはまだ持っていないのです。
鮮やかさ、色、明晰さを混ぜない
夢の色をめぐっては、いくつかの俗説が隣り合っています。短く確認しておきます。
鮮やかな色の夢は明晰夢だ、という根拠はありません。 明晰夢の中心は「夢の最中に、これは夢だと気づいていること(lucidity)」であり、色や彩度は定義の条件に含まれていません。夢の意識状態を測る尺度の研究でも、夢だという洞察、内容の制御、現実感などは別々の要素として扱われています。フルカラーで鮮烈だが夢だとは気づいていない夢も、色の印象は薄いのに明晰だった夢も、どちらもあり得ます。
白黒の夢だけから心理状態を判断する根拠も、今回参照した主要研究の範囲では確認されていません。 白黒の夢が古い記憶の再生である、心の疲れのサインである、といった説明は、報告データが支持できる範囲を超えています。
だから記録するときは、色の有無、色の鮮やかさ、夢全体の鮮明さ、夢だと気づいていたか、内容を動かせたかを、別々の項目として扱うのが安全です。この分け方は鮮明さ・明晰さ・制御を分けて記録する方法で詳しく扱っています。
朝、色を一つだけ拾ってみる
ここまでの区別は、そのまま自分の朝に持ち込めます。夢の色を「カラーか白黒か」の二択で問い詰めるのではなく、その朝にアクセスできた記憶の状態を、そのまま記録するという観測です。
次に夢を覚えている朝、物語を組み立てる前に、色について一項目だけメモしてみてください。

- 具体色:特定の色がはっきり残っていれば、色の言葉を一つだけ書く(「赤い屋根」など)。
- 全体の色調:個別の色は出てこないが雰囲気は残っている場合、「暖色寄り」「青白い」のように短く。
- 色あり不詳:色はあった気がするが、特定できない。
- 不明:色について何も判断できない。
- 無彩色:白黒・灰色に見えた、と言える場合。
大事な作法が二つあります。ひとつ、「不明」は失敗ではありません。それはその朝に取り出せた証拠の状態であり、不明を無理にカラーや白黒へ振り分けないことが、研究者たちが数字の読み違いから学んだことでした。ふたつ、無理に物語や意味を完成させないこと。夢の記憶は起きた直後から薄れ、再構成されていきます(この仕組みはなぜ夢は起きるとすぐ薄れるのかで扱っています)。色の一項目だけなら、その変化が進む前に拾いやすいのです。

数日から数週間分たまったら、見返してみてください。色の記憶はどんな場面で残りやすいか。人の顔か、空か、物か。具体色が残る朝と「不明」の朝に、違いはあるか。ここで観測できるのは、同じ質問を同じ時点で使ったときの、自分の色記憶と報告の傾向です。客観的なカラー夢の頻度そのものではありませんし、記録という行為自体が思い出す量や書く量に影響しうることも、方法論の研究が示しています。だからこそ、項目は一つに絞り、負担を軽く保ちます。すでに夢日記をつけている人は、既存の記録に一行足すだけで十分です。
いくつか境界線を引いておきます。この観測は自然に目が覚めた後にだけ行い、夜中にアラームをかけたり、睡眠時間を削ったりはしません。色を記録すれば夢が鮮明になる、明晰夢が増える、といった効果は確認されておらず、これは変化を起こす訓練ではなく、朝の記憶を残す観測です。記録が義務や不安に変わってきたら、いったんやめて構いません。悪夢が続く、睡眠や気分の不調が生活に影響している、という場合は、観察よりも休息を優先し、必要なら専門家に相談してください。
色の記録が映すのは、夢だけではない
夢の色は、答え合わせのできる正解を持っていません。夢そのものを録画する手段がない以上、私たちの手元に残るのは、朝ごとの記憶と、それを言葉にした報告だけです。研究の数字が尋ね方ひとつで大きく揺れたのは、測定の失敗というより、夢というものが体験・記憶・報告の三枚のレンズを通してしか見えないことの、正直な現れでした。
だからこそ、朝に色を一つだけ拾う観測には、数字以上のものが宿ります。続けて見返すうちに、夢の中で何が自分の目に留まり、何が物語の背景へ溶けていたのか——自分の注意と記憶の輪郭が、少しずつ見えてくるかもしれません。夢の世界がなぜあれほど本物らしく感じられるのかという、より大きな問いへの入口としても(夢はなぜ現実に感じられるのか)、色は手頃な観測点です。今夜の睡眠は、何も変えなくてかまいません。次に夢を覚えている朝、一語だけ、拾ってみてください。
参考文献
- Kahn, E., Dement, W., Fisher, C. & Barmack, J. E. (1962). Incidence of Color in Immediately Recalled Dreams.
- Schredl, M. (2008). Spontaneously Reported Colors in Dreams.
- Schredl, M., Fuchedzhieva, A., Hämig, H. & Schindele, V. (2008). Do We Think Dreams Are in Black and White Due to Memory Problems?
- Schwitzgebel, E. (2002). Why Did We Think We Dreamed in Black and White?
- Schwitzgebel, E. (2003). Do People Still Report Dreaming in Black and White?
- Schwitzgebel, E., Huang, C. & Zhou, Y. (2006). Do We Dream in Color? Cultural Variations and Skepticism.
- Murzyn, E. (2008). Do We Only Dream in Colour?
- König, N., Heizmann, L., Göritz, A. S. & Schredl, M. (2017). Colors in Dreams and the Introduction of Color TV in Germany.
- Windt, J. M. (2013). Reporting Dream Experience.
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