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夢見ラボ YUMEMI LAB
見たい夢を見る研究 中級 EVIDENCE B

入眠期N1とは?夢誘導で注目される理由

眠りの段階のなかで最初に通る、いちばん浅い「N1」。夢誘導の研究では、この短い入り口が繰り返し注目されてきました。寝入りばなの夢様体験、TDIやDormioの実験、家庭での観察と研究室条件との距離感を確かめます。

PUBLISHED UPDATED READ 10 min AUTHOR 彼方 周 · 睡眠科学ライター
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音声解説版

約6分54秒

記事の内容を、耳で追いやすい音声解説として再構成しています。

睡眠の研究では、一晩の眠りをいくつかの段階に分けて記録します。その最初にあるのが、覚醒から眠りへ移ったばかりの浅い段階「N1」。長くは続かず、本人はまだ起きているつもりでいることさえある、いわば眠りの玄関口です。

ふつうに考えれば、こんなに浅く短い段階は脇役のはずです。ところが、見たい夢を見る研究——夢の内容へ外から働きかけようとする研究——では、このN1がくり返し主役級で登場します。寝入りばなに浮かぶ夢のような映像や声、外からの言葉が内側のイメージと混ざりこむかもしれない余地。研究者たちは、この短い時間の中に観測の窓を見いだしてきました。

もちろん、N1を使えば見たい夢が見られる、という段階には至っていません。家庭で観察できることと研究室の条件とのあいだにある距離も含めて、この小さな段階の面白さを確かめていきます。

入眠期N1とは何か

睡眠は一晩のあいだ、いくつかの段階を行き来する。大きく分けると、急速な眼球の動きを伴う「レム睡眠(REM睡眠)」と、それ以外の「ノンレム睡眠(NREM睡眠)」があり、ノンレム睡眠はさらに浅いほうから深いほうへ段階が分かれている。その最も浅い、眠りに入ったばかりの段階が「N1」だ。

睡眠段階を判定する標準的な手引き(AASMのマニュアル)では、N1は、覚醒時に優勢だったα波と呼ばれる脳波が弱まり、ゆっくりとした眼球の動きなどが現れる段階として定義されている。専門的な指標を脇に置いて言い直すなら、N1は、起きている状態から眠りへ移る最初の浅い段階、ということになる。

ひとつ補助線を引いておきたい。「入眠期」と「N1」は、しばしば同じ意味で語られるが、厳密には少しずれている。入眠期は眠りに落ちていく時間帯全体を指す言葉で、N1はそのなかに含まれる最初の睡眠段階を指す。本記事では、この最初の浅い段階を中心にN1と呼ぶ。

Wake、N1、N2、N3、REMの睡眠段階の中でN1が最初の浅い段階だと示す図解
N1は、覚醒から睡眠へ移る最初の浅い段階です。深い眠りやREMとは分けて考えます。

眠りに落ちる境目で何が起きるのか

眠りに落ちていく境目では、不思議な体験が報告されることがある。まだ深く眠ってはいないのに、映像や言葉、体の感覚の断片がふと浮かぶ。この入眠期の体験は「入眠期体験(hypnagogia)」と呼ばれ、覚醒から睡眠への移行期に、感覚的な知覚や夢のような体験が生じうることが知られている。

近年の整理では、眠りに落ちる時間帯は単純なオン・オフのスイッチではなく、外からの刺激にある程度反応しながら、同時に夢のような体験も生まれうる、複雑な移行過程として捉えられている。起きていることと眠っていることが、きれいに切り替わるのではなく、しばらく混ざり合っている——この「混ざり合い」こそ、N1が研究者の関心を集める理由のひとつになっている。

N1は夢なのか、夢の手前なのか

では、寝入りばなに浮かぶこの断片は「夢」なのだろうか。それとも、夢の手前にある別の何かなのだろうか。

この問いには、きれいな線を引きにくい。N1は脳波や眼球運動などから判定する睡眠段階で、入眠期体験(hypnagogia)は寝入りばなに生じる知覚・思考・身体感覚のまとまりを指す。両者は重なりうるが、同義ではない。夢のような断片を覚えていたからN1だった、N1なら必ず夢が生じる、と一対一に結びつけないことが大切だ。

「夢はレム睡眠で見るもの」という言い方を聞いたことがあるかもしれない。確かにレム睡眠では鮮明な夢が報告されやすい。けれど、夢のような体験や睡眠中の思考の報告は、レム睡眠だけでなくノンレム睡眠でも起こることが、古くからのレビューでも、近年の高密度の脳波計測を使った研究でも報告されている。だから「N1はレム睡眠ではないから夢ではない」とは言いきれない。N1は、夢と覚醒のあいだにある、夢様体験が生まれうる帯として見るのが、いまのところ妥当だ。

思考の断片、映像と言葉、夢様体験が連続していく入眠期スペクトラムの図解
寝入りばなの体験は、夢か夢でないかの二択ではなく、断片から夢様体験へ移る連続体として見ると分かりやすくなります。

なぜTDIやDormioでN1が使われるのか

見たい夢を見る研究、とくに「狙ったテーマの夢を育てる試み(targeted dream incubation、TDI)」では、このN1が舞台としてよく選ばれる。なぜだろう。

ひとつは、N1付近では、直前に触れた記憶や外からの刺激が、その後の体験に入り込みやすい可能性が指摘されているからだ。連続して被験者を起こし、報告を集めた研究では、直近の記憶が夢に取り込まれる度合いが、ほかの段階に比べてN1とレム睡眠で高い可能性が報告されている。

この性質に注目した代表例が、研究装置「Dormio」だ。Dormioは、眠りに入りかけたタイミングを生理的な指標から推定し、音声で短いテーマ(たとえば「木のことを考えて」)を伝え、少ししてから起こして、何を体験していたかを報告してもらう。これをくり返すことで、与えたテーマが寝入りばなの体験に入り込むかどうかを調べる仕組みになっている。

ここで強調しておきたいのは、これが研究室の手続きだという点だ。Dormioは脳波そのものをリアルタイムで判定しているわけではなく、心拍や手の力の抜け具合といった生理的な代理指標から入眠を推定している。タイミングの制御、くり返しの覚醒、報告の収集——いくつもの要素が組み合わさって、はじめて成り立っている試みだ。

テーマ、N1推定、音声プロンプト、短い覚醒、報告というTDI研究手順を示す図解
TDIやDormioは、ただ音を流す話ではありません。テーマ提示、N1推定、短い覚醒、報告収集までを含む研究手順です。

外の言葉や音はどこまで入り込むのか

外からの言葉や音は、夢にどこまで入り込むのだろう。

研究室では、与えたテーマが入眠期の報告に反映されるかが調べられている。さらに、睡眠実験室そのもの——電極やベッド、その場の状況——が夢の内容に取り込まれることがある、とも報告されている。つまり夢は、外の世界から完全に閉じているのではなく、ある程度の入り口を残しているらしい。

ただし、ここから「音や言葉を流せば夢に入る」と進むのは行きすぎだ。研究室の結果は、タイミングを細かく制御し、くり返し起こして報告を集める、という条件のうえで得られている。流しておけば必ず夢に届く、という単純な話ではない。入り口は確かにありそうだが、その入り口は、自由に開け閉めできる操作盤ではない。

N1研究で示されたこと

N1は、夢の研究だけでなく、創造性や問題解決の研究でも注目されている段階だ。

入眠期に狙ったテーマを取り込む手続きを使った研究では、そのテーマに関連した創造的な課題の成績に差がみられた、という報告がある。また別の研究では、ごく短い時間でもN1に到達することが、特定のひらめき課題の成績と関連していた。眠りに落ちる手前の、思考がゆるんで連想が広がる状態が、創造性と何か関係しているのかもしれない——そんな期待を抱かせる結果だ。

ただし、これらはいずれも、特定の課題、短い時間、比較的小さな規模の研究で得られた所見だ。「N1に入れば創造性が必ず高まる」とは言えないし、日々の創作全般に効くと一般化することもできない。N1が創造性研究で注目されている、という事実と、N1が創造性を高める方法である、という主張は、はっきり分けておきたい。

家庭で試す話との距離

家庭用機器の「浅い睡眠」は、N1の確定判定ではありません。 多くの機器ではN1とN2をまとめた区分や、独自アルゴリズムの推定値が表示されます。機器名と検証条件を確認せず、「N1ぴったりで刺激できる」とは考えないでください。

ここまで読むと、家でも寝入りばなを捕まえて、何かを試せそうに思えるかもしれない。けれど、研究室と家庭のあいだには、思っているより大きな距離がある。

まず、N1はそもそも捕まえにくい。睡眠段階の判定がどれくらい一致するかを調べたメタ分析では、全体としてはある程度そろう一方で、N1の判定一致度はほかの段階より低く、専門家でも曖昧になりやすいことが示されている。研究室で脳波を見ている専門家ですら迷う段階を、家庭で正確に自己判定するのは難しい。

さらに、N1はとても短く、つかの間の段階だ。ある実験では、N1だけで休息を終えた条件は、もう少し先のN2まで進んだ条件に比べて、記憶の成績が低くなる可能性が示された。N1は、長く居座る場所ではなく、すぐに通り過ぎてしまう薄い帯なのだ。

研究室の興味深い結果は、装置、タイミング制御、くり返しの覚醒、その場の環境といった条件のうえに成り立っている。家庭でその精度をそのまま再現できる、と考えないほうがよい。N1研究は面白い。けれど、研究室で観測されていることと、家庭でできることは、分けて理解する必要がある。

研究室の計測や制御や反復覚醒と、家庭での睡眠優先や一言メモの違いを示す図解
研究室では計測と制御がある一方、家庭で大切なのは睡眠を優先し、覚えていたら一言だけ拾う距離感です。

初心者はどう観察すればよいか

それでも、寝入りばなの体験を自分なりに眺めてみたい、という気持ちはよくわかる。研究室の再現ではなく、眠ることそのものを邪魔しない範囲で、覚えていたら拾う——その程度の軽さなら、入口がある。

  1. 眠ることを主目的にする。 観察のために眠る時間を削らない。いつもどおり、眠くなったら眠る。
  2. 無理に意識を保とうとしない。 布団に入ったら、むしろ力を抜いて眠りに任せる。境目をこじ開けようとしない。
  3. 覚えていたら、それで十分。 もし運よく、眠りに落ちる手前で映像や言葉の断片を覚えていたら、それを心に留める。覚えていない夜のほうが多くて当たり前だ。
  4. 朝に思い出せたら、一言だけ。 起きてから、思い出せた断片を短く書きとめる。思い出せなければ、書かなくてよい。
  5. 「うまくやろう」としない。 たまに眺める程度に留める。

ここで大事なのは、眠りを妨げないことだ。N1を長く保とうとしたり、何度も自分を起こして境目を捕まえようとしたりするのは勧めない。睡眠そのものは、健康にとっても頭の働きにとっても大切で、中断されにくい十分な睡眠が土台になる。観察は、その土台を崩さない範囲で、たまに思い出せたら拾う、軽い趣味のようなものとして扱ってほしい。

眠る、覚えていたら、一言メモという初心者向けの安全な観察ステップを示す図解
初心者の入口は、眠ることを主目的にして、覚えていたら朝に一言だけメモするくらいの軽さです。

起きている自分と、夢を見はじめる自分の境目に、小さな窓がある。毎晩そこをくぐっているのに、ほとんど覚えていない——その不思議さを少しだけ味わうところから始めれば、それで十分だ。

N1研究から持ち帰れる境界

言えること

  • N1は、覚醒から睡眠へ移る最初の浅い段階として扱われている。
  • 寝入りばなには、映像や言葉、感覚の断片のような夢様体験が現れることがある。
  • 夢のような体験は、レム睡眠だけでなくノンレム睡眠でも報告されている。
  • 研究室では、N1付近で与えた言葉やテーマが報告内容に反映されるかが調べられている。
  • N1は、創造性や洞察の研究でも注目されている段階である。
  • N1は短く不安定で、研究の場でも判定が難しい。

言えないこと

  • N1を利用すれば、見たい夢を見られる。
  • 寝入りばなのイメージは、すべて完全な夢である。
  • 音声や言葉を流せば、夢に必ず入る。
  • N1に入れば、創造性が必ず高まる。
  • 家庭でも、研究室と同じ誘導を再現できる。
  • N1を長く保つ練習をすべきだ、睡眠を中断してでも観察すべきだ。

観察より睡眠を優先するサイン

  • 不眠や日中の強い眠気など、睡眠そのものに困りごとがある人は、寝入りばなを観察する実験よりも、まず睡眠を整えることや、必要に応じて専門家へ相談することを優先してください。この記事は、不眠や悪夢、その他の症状を改善するためのものではありません。
  • 寝入りばなに、怖いイメージや体が動かない感覚がくり返し現れて苦痛がある人は、無理に観察を続けないでください。つらさが続く場合は、自己観察ではなく、医療や相談の窓口を頼ることをおすすめします。

次に読むと面白い記事

N1を舞台にした具体的な手続きについては、狙った夢を育てる「ターゲット・ドリーム・インキュベーション(TDI)」とは で詳しく扱っています。「そもそも見たい夢は見られるのか」という大きな問いには 見たい夢は可能か、夢を工学のように扱おうとする近年の動きには いま、夢のエンジニアリングはどこまで来たか、そして「夢だと気づく」明晰夢の基礎には 明晰夢とは何か が、それぞれ入口になります。

参考文献

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